リストラされた場合、退職金の支払いはどうなるのでしょうか。
実は、退職金の支払いは法律上の義務ではありません。退職金の支払いは就業規則等の内容によって定まります。
そのため、リストラされた場合に退職金が支払われるかどうかは、会社のルール次第ということになります。
今回の記事では、リストラの場合の退職金の支給について弁護士が解説します。
退職金が支給されるかどうかは、会社のルール次第
退職金制度は、法律上の制度というわけではありません。
退職金は、あくまで、労働契約上の合意や、労使慣行が成立している場合に、使用者から労働者に対して支払われるものです。
具体的には、以下のいずれかの場合に使用者に退職金支払い義務が生じる可能性があるといえます。
- 労働契約や就業規則等に、退職金の支払いに関する規定が存在し、支給基準が明確に定められている場合
- 退職金の支払いに関する労使慣行が成立している場合
労使慣行とは、私法上の権利義務発生根拠の一つです。
労使慣行は、次の場合に、事実たる慣習(民法92条)として権利義務の発生根拠となります。
同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続され、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥しておらず、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられているといえる場合
会社で従来から退職金が支払われ続けていたという事実が存在し、この1~3までの要件が満たされる事情が認められる場合には、労使慣行として使用者には退職金支払い義務が認められることになります。
退職金に関して不安をお持ちの方は、一度、労働契約や就業規則の内容を確認したり、人事部門に聞いてみたりしたほうがよいでしょう。
リストラとは一般的に、「整理解雇」と「希望退職」を指すケースが多い
では、次にリストラについて解説します。
リストラとは、「Restructuring」という英語の略語です。
「Restructuring」は日本語で再構築という意味があります。
人員削減による事業の再構築を表す言葉として、このリストラという言葉が用いられてきました。
具体的には、『整理解雇』や『(早期)希望退職制度』を指して、リストラという言葉が用いられることが多いようです。
ここで、『整理解雇』、『(早期)希望退職制度』について解説します。
(1)「整理解雇」の4つの要件
整理解雇とは、使用者が経営不振の打開や経営合理化を進めるために、余剰人員削減を目的として行われる解雇をいいます。
通常、リストラによる解雇の場合、整理解雇にあたります。
整理解雇は、普通解雇や懲戒解雇と異なり、労働者には落ち度がない状況下で行われるものです
そのため、裁判例では、この整理解雇について厳格に判断される傾向にあります。
具体的には、以下の4つの要件を満たした場合に限り、整理解雇を有効と判断する傾向にあるといえます。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力
- 被解雇者選定の合理性(選定基準と具体的選定の双方の合理性)
- 手続きの相当性(労働者との協議、説明等)
整理解雇の場合も、退職金の支払は会社のルール次第
整理解雇にあった場合、退職金の支払いはどうなるのでしょうか?
前述したように、退職金の支払いは法律上の義務ではなく、労働契約や就業規則等で退職金支給制度が明定されている場合等に生じるものです。
つまり、退職金の支払いがなされるか否かは、契約内容次第ということです。
整理解雇にあった場合であっても、労働契約や就業規則等に退職金支払いに関する支給要件等が明定されている場合(かつ、整理解雇の場合には例外的に退職金の支給を認めないという規定が存在しない場合)であれば、退職金は通常通り支払われることとなります。
整理解雇は労働者に落ち度がない状況下で行われるものです。そのため、法律上の義務はありませんが、整理解雇の場合には退職金を通常の退職の場合よりも優遇されることが望ましいといえます。
(2)「(早期)希望退職制度」「選択定年制度」とは
(早期)希望退職制度とは、使用者が労働者の自主的な退職を募り、希望者に辞職をさせる、ないしは、使用者と希望者との間で労働契約の合意解約をすることをいいます。
整理解雇は、使用者から労働者に対する労働契約の終了に関する一方的な意思表示ですが、(早期)希望退職制度は、退職するか否かについてあくまで労働者の自主的な判断にゆだねられています。
また、この(早期)希望退職制度によく似た制度として、選択定年制度というものがあります。
定年制とは、労働者が一定の年齢に到達したときに労働契約を終了させる制度をいいますが、選択定年制度とは、労働契約を終了させる年齢を一定の範囲で労働者が選択できる制度です。
(早期)希望退職制度も選択定年制も、労働契約の終了が労働者の意思にゆだねられているという点で共通しており、この点で整理解雇とは異なっています。
(早期)希望退職や選択定年制の場合、満額の退職金が支払われることも多い
(早期)希望退職制度や選択定年制によって、労働契約が終了した場合であっても、前述したように、労働契約や就業規則等に退職金支払いに関する支給要件等が明定されている場合(かつ、希望退職等の場合には例外的に退職金の支給を認めないという規定が存在しない場合)であれば、退職金は通常通り支払われることとなります。
むしろ、(早期)希望退職制度や選択定年制は、主に人員削減を目的として行われることから、早期退職者には見返りとして、定年までの満額の退職金が支払われるケースが多いようです。
(早期)希望退職制度と選択定年制度の違い
では、(早期)希望退職制度と選択定年制度の違いはどこにあるのでしょうか。
主な違いは、(早期)希望退職制度の場合、会社都合退職として処理されるケースが多く、選択定年制度の場合、自己都合退職として処理されるケースが多いという点です。
会社都合退職の場合と自己都合退職の場合とで、主に次の2点で差が生じます。
- 就業規則等において、退職金の支給率等に関して、自己都合退職と会社都合退職で差が設けられている場合、退職金の支給率等に差が生じる
- 失業保険給付の給付日数等において差が生じる
リストラで退職金を受け取るときの注意ポイントとは?
これまで解説してきた通り、リストラ(整理解雇、(早期)希望退職制度)にあった場合であっても、就業規則等に退職金支給制度が明定されていれば、退職金は通常通り支払われる可能性があります。
ここでは、リストラで退職金を受け取る際の注意ポイントを解説します。
(1)個別に退職金の増額交渉ができるケースは限られている
退職金の支給要件等は、就業規則等であらかじめ一律に規定されている場合がほとんどです。
そのため、リストラにあった場合に、個別に退職金の増額交渉を行うことは難しいのが一般的です。
ただし、個別に退職勧奨を受け退職に至った場合には、退職金の増額交渉を行える余地があるかもしれません。
その際には、退職時期の前倒しや、未消化の有給を消化しないことなどを条件として、退職金を増額してもらうなどの交渉が考えられます。
(2)退職金には税金がかかる
退職金の支給を受けた場合、所得税と住民税がかかることに注意しましょう。
【所得税】
退職金にかかる「所得税および復興特別所得税」は、おおまかにいうと、まず『課税退職所得金額』を算出した上で、これに所得税額を乗じることによって計算されます。
具体的には以下のようになります。
〈課税退職所得金額〉
課税退職所得金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2
〈退職所得控除額〉
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数 ※合計が80万円に満たない場合は80万円 |
20年を超える | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
〈所得税〉
退職金の所得税額=課税退職所得金額×所得税率-控除額
〈復興特別所得税〉
復興特別所得税額=基準所得税額×2.1%
【住民税】
住民税は、前述した課税退職所得金額に住民税率を乗じることによって算出されます。
住民税=課税退職所得金額×10%
【まとめ】リストラの場合も退職金が支払われるかは会社のルール次第
本記事をまとめると以下のようになります。
- 退職金の支払いは法律上の義務ではなく、会社のルール(契約内容や労使慣行)によって決まる
- リストラとは、整理解雇や(早期)希望退職制度を指すことが多い
- リストラされた場合に、退職金が支払われるかは、契約内容や労使慣行次第
- リストラにあった場合、個別の退職金増額交渉ができるかはケースバイケース
- 退職金には、所得税と住民税が課されることに注意
退職金の支払い等に関してトラブルをお持ちの方は、退職金の問題を取り扱う弁護士などにご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。