「妊娠や出産をしたら会社を辞めてくれと言われた。これっておかしくない?どう対処したらいい?」
妊娠や出産を理由に会社を辞めさせることはマタハラ(マタニティハラスメント)で、違法です。
妊娠や出産を理由に、解雇などの不利益な取り扱いを受けないよう、法律上様々に保護されています。
それにもかかわらず、会社から違法で不利益な取り扱いを受けた場合は、労働局の紛争解決援助制度を利用したり弁護士に相談したりするとよいでしょう。
今回の記事では、
妊娠や出産に対する法律上の保護規定や、そうした規定に反した場合の対処法など
について、弁護士が解説します。
マタハラによる解雇や退職勧奨は法律違反
マタハラ(マタニティハラスメント)の明確な定義はありませんが、妊娠、出産、育児に関することで不快な思いをさせられることを広くマタハラといいます。
そして、妊娠、出産、産前産後休暇の申請及び取得、育児休業等を理由とする、労働者への解雇その他の不利益な取扱いは、原則として違法となります。
これらは、以下のような法律で規定されています。
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業(産前6週間以内の休業)を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業(産後8週間以内の休業)をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるもの(※)を理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
引用:男女雇用機会均等法9条3項
(※)男女雇用機会均等法施行規則2条の2を参照。
事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
引用:育児介護休業法第10条
※なお本条は、16条によって介護休業申出及び介護休業にも準用されます。
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疫病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。
引用:労働基準法第19条1項本文
マタハラによる代表的な「不利益取扱い」の例としては、以下のようなものを挙げることができます。
- 解雇
- 退職勧奨
- 雇い止め、契約更新回数の引き下げ
- 雇用形態の変更(正社員雇用→非正規雇用)の強要
- 降格、減給
マタハラの裁判例
近年の最高裁判例には、妊娠中の軽易業務への転換(労働基準法65条3項)を契機としてなされた女性労働者の降格措置が、男女雇用機会均等法9条3項の禁止する不利益取扱いにあたるかという点について争われたものがあります。
最高裁は、「妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する不利益取扱いに当たる」が、「当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」又は「業務上の必要性から支障がある場合であって、……同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらない」という「原則違法・例外適法」の判断枠組みを示しました。
その上で、本件の事案においては、降格措置の重大さなどを考慮すると「自由な意思に基づいて降格を承諾したもとの認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできない」とし、「降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障があったか否か等は明らかではなく……特段の事情を認めることはできない」といずれの例外事由も認められないと述べて、本件降格措置を適法とした広島高裁の判断を破棄し、例外事由の存否を判断させるため高裁に差し戻しました。
差戻審となった広島高裁平成27年11月17日・労判1127号5頁は、いずれの例外事由も認められないと判断し、本件降格措置は不法行為及び配慮義務違反の債務不履行にあたるとして、原告女性からの損害賠償請求をほぼ全面的に認めています。
参考:広島中央保険生活協同組合事件(最高裁第一小法廷判決平成26年10月23日・民集68巻8号1270頁)|裁判所 – Courts in Japan
マタハラで「解雇」されてしまったときの対処法
次に、妊娠を理由として解雇処分を受けた場合など、マタハラによる解雇処分への対処法についてご紹介します。
使用者が労働者を解雇処分や懲戒処分にできるのは、「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当である」と認められるときに限られています(労働契約法15条・16条)。
そして、マタハラによる解雇は、「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当である」とは到底いえませんので不当解雇にあたります。
そのような解雇処分を受けた場合、まず、不当解雇の証拠になるものとして、退職の日までに会社に「解雇理由証明書」の発行を求めておきましょう。
解雇理由証明書とは、解雇事由について具体的に記載された書面のことです。会社には従業員の求めに応じて解雇理由証明書を発行する義務があります。
その上で、不当解雇の撤回を申立てることが考えられます。これには以下のような方法があります。
- 会社に直接申し入れる
- 労働局の紛争解決援助制度を利用したりする
労働局の紛争解決援助制度は、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づく、労働条件等についての個々の労働者と事業主との間の紛争を解決することを目的とした制度です。
都道府県労働局は、「総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談」「都道府県労働局長による助言・指導」「紛争調整員会によるあっせん」という3つの紛争解決援助制度を設けています。 - 弁護士などに相談する
弁護士に相談・依頼すれば、あなたの代理人(味方)として、会社と交渉したり、法的手続きをとってくれたりします。 - 法的手続きを検討する(労働審判・訴訟)
訴訟においては、違法な不当解雇に対する損害賠償請求も可能な場合があります。
参考:個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)│厚生労働省
マタハラで「退職勧奨」を受けたときの対処法
次に、妊娠を理由とする退職勧奨など、マタハラで退職勧奨を受けた場合についてご説明します。
解雇が使用者側による一方的な雇用契約の終了であるのに対して、退職勧奨は、使用者が労働者に対して自主的な退職を求める方法となります。
会社側から退職届へのサイン(署名又は押印)を求められても、退職の意思がないのであればサインしてはいけません。
拒んでいるのに退職勧奨を受け続ける場合には、労働局の紛争解決援助制度を利用したり、弁護士へ相談したりすると良いでしょう。
会社側による執拗な退職勧奨は、労働者を精神的に追い詰めるものであり、不法行為にあたるとして損害賠償責任を負う可能性もある行為です。
会社から執拗な退職勧奨を受けた場合には、早い段階で上記の公的窓口や弁護士に相談することをおすすめします。
マタハラで、不当な減給・降格・配置転換を受けたときの対処法
妊娠中や出産後一定期間は、以下のように、各種の法規定によってさまざまな形で守られています。
- 保健指導や健康診査を受けるために必要な時間を確保できるようにする事業主の義務(男女雇用機会均等法12条)
- 保健指導や健康診査に基づく指導事項を守るための勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じる事業者の義務(男女雇用機会均等法13条)
- 危険な環境での業務の禁止(労働基準法64条の3)
- 産前休業(労働基準法65条1項)、産後休業(労働基準法65条2項)
- 妊娠中の女性の請求による軽易な業務への転換(労働基準法65条3項)
- 妊産婦(妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性)の請求による労働時間の制限(労働基準法66条)
使用者がこれらの規定を守らない場合は違法となります。また、妊娠中の労働者や出産後一定期間内の労働者がこれらの規定に沿う行動を取ったことを理由として不当な処分(減給・降格・配置転換等)を受けた場合には、マタハラであり、不利益な取扱いとして違法となる可能性があります。
こうした場合には、内容証明郵便で処分無効の通知を会社に対して行ったり、弁護士などに相談したり、処分が不当であることの証拠を揃えて労働局の紛争解決援助制度を利用したりすると良いでしょう。
それでも解決できない場合は、労働審判や訴訟などの法的手続きを検討することになります。
【まとめ】マタハラで解雇や退職勧奨をされた場合には、弁護士などへの相談を
今回の記事のまとめは以下のとおりです。
- マタハラによる解雇・退職勧奨・減給などの不利益取扱いは違法です。
- 不利益取扱いを撤回させるためには、大きく分けて「会社に直接申し入れる」「労働局の紛争解決制度を利用する」「弁護士などに相談する」「法的手続きを行う」という3つの対処法があります。
マタハラを受けたら一人で抱え込まずに、第三者に相談することが大切です。マタハラを取り扱っている弁護士などに早めに相談しましょう。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。